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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)11731号 判決 1973年5月16日

甲・乙両事件原告 株式会社ワンビシ産業

右代表者代表取締役 樋口捲三

右訴訟代理人弁護士 浦田乾道

同 小宮圭香

乙事件被告 大幸開発株式会社

右代表者代表取締役 大島房次

右訴訟代理人弁護士 荻津貞則

甲事件被告 東急開発こと 坂本清之助

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金三〇万八一六二円と、これに対する昭和四一年一一月一六日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文一ないし三項と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  被告大幸開発株式会社

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(二)  被告坂本清之助

原告の請求を棄却する。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、ガソリンスタンド等を保有し、石油製品等の販売を業とする会社である。

2  被告大幸開発株式会社(以下被告会社という)は、不動産売買仲介等を業とする会社で、昭和三七年二月一三日丸善開発株式会社の商号で設立され、同年四月二五日に東急開発株式会社と、同四一年八月一八日に現商号へと順次商号変更を経て現在に至っている。

3  原告は、昭和四一年二月中旬ころ、被告会社との間で、毎月二〇日締切り翌月一五日現金支払いの約定で、ガソリン等を継続して販売する旨の契約(以下適宜本件契約と略称する)を締結した。

4  被告坂本清之助(以下単に被告坂本という)は、前項の契約締結に際し、右取引に基づく被告会社の債務を連帯保証した。

5  原告は前記契約に基づき、昭和四一年三月頃から被告会社に対しガソリン等を売渡したが、そのうち同年四月二〇日より九月二一日までの代金合計三〇万八一六二円につき支払いがないので、被告両名に対し、右残代金三〇万八一六二円およびこれが支払期日後である同年一一月一六日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求めるものである。

6(1)  仮りに右第3項の契約の相手方が、練馬区早宮一丁目一〇番二〇号に本店を有する訴外東急開発株式会社(以下単に訴外会社という)であるとしても、被告坂本は原告と訴外会社間のガソリン等の販売契約の締結に際し、右契約より生ずる訴外会社の債務につき連帯保証した。

(2)  仮りに右第三項の契約の相手方が訴外会社もしくは被告坂本であったとしても被告会社は昭和四一年一月頃以来訴外会社もしくは被告坂本に対し、当時被告会社の「東急開発株式会社」という商号を使用し、従前被告会社が被告会社渋谷店として営業していた渋谷区金王町四番地所在大一ビル内の賃借店舗で被告会社の主たる業務と同一の不動産の売買・仲介業を営むことを許諾していたものである。

そして原告は、第3項の取引に当り、被告会社を営業主と誤認していたものである。

(3)  従って被告会社は、訴外会社もしくは被告坂本と連帯して前項記載の金員を支払う義務があり、被告坂本は、自らが右取引の主体であるときは主債務者として、訴外会社が契約当事者である場合にも、連帯保証人として同様前項記載の金員の支払義務を負うものである。

二  請求原因に対する認否

(一)  被告会社

請求原因第一、第二項の事実は認め同第三項、第五項、第六項(2)の事実はいずれも否認する。

被告会社が前記渋谷の「大一ビル」において営業していたのは、昭和四〇年九月頃から同年一一月頃までであり、訴外会社は、同年一二月二二日旧商号である「株式会社成興商会」を「東急開発株式会社」と商号変更し、昭和四一年一月一〇日被告坂本が代表取締役の就任登記を経、右ビル内の事務所を賃借して不動産仲介営業を開始したものであり、被告会社とは商号こそ一時期同一であったが、営業主体は全く別個である。原告主張の如き契約が成立したとすれば、その相手方は、右訴外会社であり、被告会社ではない。

(二)  被告坂本

請求原因第一項の事実は認め、第四、第六項の事実は否認し、第二、第三項、第五項の事実は不知。

≪以下事実省略≫

理由

第一  原告がガソリンスタンド等を保有し、石油製品等の販売を業とする株式会社であることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告会社は昭和三七年二月一三日「丸善開発株式会社」の商号で、本店所在地を板橋区大山金井町五二番地として設立されたもので、同年四月二五日に「東急開発株式会社」と、次いで同四一年八月一八日現商号である大幸開発株式会社へと順次商号変更を経、昭和四二年七月二八日には本店所在地を現住所に移転したこと、その間終始土木建築請負、家屋の建売、不動産の売買および仲介業等を営業目的としてきたことが認められる。(右のうち被告会社の営業目的、商号変更については原告と被告会社間においては争いがない。)

第二  ところで原告は、先ず本件契約は、被告会社との間で締結されたと主張するので、この点について検討するに、≪証拠省略≫によれば、なるほど原告主張の昭和四一年三月頃、渋谷区金王町四番地大一ビル内で営業していたいわゆる「東急開発株式会社」と原告の間で、ガソリン等の販売に関する給油契約書(甲第一号証の一)が取交わされたことが認められ、右契約書上購入者として表示された者の商号が当時の被告会社の商号と同一の「東急開発株式会社」であることは同証上明らかであるが、他方その住所としては渋谷区金王町四番地(大一ビル)代表取締役としては被告坂本の氏名がそれぞれ表示されていることも同証上明白であるのに対し、≪証拠省略≫によれば、被告会社の当時の本店所在地は板橋区大山金井町五二番地、代表取締役は大島房次であったことが認められるのであり、これらの事実よりすれば、単に当時の被告会社と同一の商号を以て契約書が作成されたという一事だけで、被告会社を本件契約の相手方であると速断することはできないのみならず、後記認定のように、右大一ビル内で「東急開発株式会社」の商号を使用して不動産の売買仲介等を営んでいたのは被告坂本個人であり、同人は被告会社の支店あるいは営業所の責任者としてではなく、別個独立の営業としてこれをなしていたものであることが認められるので、結局本件契約が原告と被告会社との間で締結されたとの原告の主張は、これを認めるに足りる証拠がないというほかない。

第三  次に本件契約の相手方および被告会社の名板貸責任の成否について判断する。

一  ≪証拠省略≫を総合すれば、

1  被告会社は、板橋区大山金井町五二番地に本店を置き、昭和三九年末頃からは前記渋谷区内の大一ビル三階および四階の一部を賃借してこれを被告会社渋谷店として主として不動産の売買、仲介の営業を継続してきたが、同四〇年一一月頃事業不振のため不渡を出し営業を中止するに至り、右渋谷店も事務所を賃借したまま閉鎖するのやむなきに至った。

2  しかし被告会社はすでに手がけていた茨城県鹿島町の宅地分譲の件にかなりの宣伝費を投入しており、しかも充分な利益を期待できたので、この事業の遂行を希望していたが、一方右事業による利益に対する債権者の追求も必至であったから、かかる追求を免れ利益を取得できる方法に苦慮していたところ、昭和四一年一月初旬ころ、たまたま被告会社代表者大島房次が以前金融上の指導を受けたことがあり、当時事務所を探し求めていた被告坂本との間で、被告坂本が個人として前記事務所やその備品および被告会社の従業員をそのまま引継ぎ、被告会社の前述の事業を営み、得た利益は両者間で配分するとの話合が成立した。

3  右のとり決めに従って被告会社代表者大島は被告会社従業員に対して被告坂本を紹介し、被告坂本は被告会社が引き続き賃借していた前記渋谷区の大一ビル内事務所において、被告会社の残留従業員の関長治、菊田順一、梅野次郎等を指揮し、被告会社所有の車二台、電話等をも使用して営業を開始したが、前項の話合の趣旨から被告会社の当時の商号である「東急開発株式会社」を名乗り、事務所入口に右社名を金文字で表示した看板も従前被告会社が営業していた当時のものをそのまま使用することが認められた。

4  被告会社代表者大島は時折右大一ビル内事務所を訪れたが右のとおり被告会社が営業主体であるかの如き外観に対してはもとより何らの異議を述べることもなく、被告坂本はその経営責任者として出勤し、従業員を指揮していたのであるが、当初は利益を期待できたこの事業も、従業員の不正行為があったりして振わなくなり、同年秋頃にはビルの貸主と被告会社の賃貸借契約が解除され、事務所明渡の事態に陥り、右の営業もここに終焉を余儀なくされた。

5  右営業継続中の同年三月頃販路拡張のために右事務所を訪れた原告会社の従業員古旗敏男は、同所で毎月二〇日締切り翌月一五日現金払いの定めでガソリン等の販売契約を締結したが、同人は、前記事務所入口の看板等の外観や同所における営業状況および右契約書上に購入者として「東急開発株式会社」と表示されたことなどから右営業主体は被告会社であり、従って右契約の相手方も勿論同社であると誤信し、その点に何らの疑念も抱かなかった。

以上の事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

二  以上認定の各事実によれば、渋谷区金王町四番地大一ビルにおいて東急開発株式会社の商号を用いて不動産売買、仲介等の事業を営んでいたのは被告坂本個人であり、従って本件契約は原告と同人間に締結されたものと認めるのが相当であり(被告坂本個人の署名押印は前記契約書(甲第一号証の一)上連帯保証人欄に存するにすぎないが、一に説示の経緯に鑑み、上記認定の妨げとなるものではない)、また被告会社は被告坂本が被告会社の商号を使用して営業をなすことを許諾しており、原告は上記認定の被告坂本との間の本件契約に際し購入者は被告会社であると誤認していたものと認めるのを相当とするから、結局被告坂本は本件契約の当事者として、また被告会社は被告坂本に対する名板貸人として同人と連帯して、それぞれ本件契約より生ずる債務につきその支払の責を負うものというべきである。

右に関し被告会社は本件契約の当事者―購入者―は練馬区早宮一丁目一〇番二〇号に本店を有するものとして実在する訴外「東急開発株式会社」であると主張し、なる程≪証拠省略≫によれば、昭和三二年六月三日に本店所在地を品川区五反田一丁目四〇五番地として設立された「株式会社成興商会」なる会社が、昭和四〇年一二月二〇日、当時の被告会社の商号と同一の「東急開発株式会社」という商号に商号変更されており、被告坂本が翌四一年一月二日右会社の代表取締役に就任した旨の登記のあることが認められるが、他方、≪証拠省略≫によれば右会社は昭和三九年頃から休眠状態にあり資産も何一つない状態で、その役員は被告会社従業員の関長治、あるいは被告会社代表取締役大島房次の妻である大島栄子など被告会社の関係者が多いこと、その本店所在地は、昭和三九年六月一一日から昭和四〇年一一月三〇日に前記練馬区に移転するまでは、当時の被告会社の本店所在地であった板橋区大山金井町五二番地と同一場所であったこと、その株式のほとんどは前記大島房次が所有していること、右会社の商号変更、本店移転の手続は大島房次の指示の下になされたもので、被告坂本の前記代表取締役就任登記すら本人不知の間になされたものであること、本店移転先の練馬区早宮一丁目一〇番二〇号は前記大島房次所有のアパートで、同所では何ら営業活動はなされていなかったことが認められ、これらの事実に加えて弁論の全趣旨を総合すると、右訴外会社は単に被告会社代表取締役大島房次が債権者からの追求を免れる便法の一つとして休眠状態にあった前記成興商会の商号を被告会社のそれと同一のものに変更しただけの全く実体の裏付のない形骸だけのものであったと認めざるを得ず、従って本件渋谷区の大一ビル内での営業の主宰者が右訴外会社であるとは到底解することはできない。≪証拠判断省略≫

第四  売掛代金額

≪証拠省略≫によれば、昭和四一年四月二〇日から同年九月二一日までの間に原告が本件契約に基き被告坂本に供給したガソリン代金額は合計三〇万八一六二円に上ることが認められ、第三項一5に認定した約定に従えば、その最終販売分(昭和四一年九月二一日給油分)の弁済期は昭和四一年一一月一五日となる筋合であるから前記代金債権の履行期は悉く右同日までに到来したというべきである。

第五  結論

以上によれば、被告会社および被告坂本に対し各自金三〇万八一六二円および右最終弁済期の翌日である昭和四一年一一月一六日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由があるのでこれを全部認容し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木潔 裁判官 荒川昂 裁判官宮森輝雄は職務代行を解かれたので、署名押印することができない。裁判長裁判官 鈴木潔)

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